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栗駒山・産女川 (記録:吉田)
2010年10月09日~10日
L.吉田、宮崎、石松、高橋聡
  • 10/09
  • 桂沢林道ゲート(07:50)-入渓(09:10)-産女川(11:30)-笊森避難小屋(14:50)
  • 10/10
  • 笊森避難小屋(07:10)-栗駒山(08:10-08:40)-笊森避難小屋(09:30)-桂沢林道ゲート(12:20)

東北の秀渓との誉れ高き産女(ウブスメ)川であるが、二年前の大地震で渓相はかなり変わってしまったようである。どれだけの変化があったのか、かなり不安をかかえながらも、この目で確かめたく入渓してみた。しかしながら、その荒れようは予想していた以上のものがあり、今さらながらに、自然の猛威を思い知ることとなった。
10/9 小雨
前夜は一関IC近くの道の駅厳美渓で仮眠後、国道342号を通り真湯温泉へ移動。磐井川では地震による復旧工事であろうか、護岸工事があちらこちらで見られた。真湯温泉より桂沢林道へと入る。林道の入口は分かりやすい。林道に入るとフロントガラスを雨が濡らすようになる。本日は雨は降らない予報だったが、思いのほか早く前線が来たようだ。ゲートにはすでに一台の軽が停まっていた。
桂沢林道を一時間の歩きで産女川と思われた場所に着く。そこには眼を疑うような光景があった。あるはずの産女橋は跡形もなく、あるのはむき出しになった橋桁だけだった。周りは崩壊の痕はげしく、緑の少ない土石流に流された荒れた川だった。一同、これには唖然とする。地形図とはずいぶん違うなとは思いつつ、橋桁の存在と右岸からしっかりした枝沢が入ってきているので、産女川と確信してここより入渓する。 入ってすぐのところに沢を横切るワイヤーが張ってあったが、帰ってから調べてみるとそれは土石流を感知するもののようだ。
しばらく歩いても荒れた渓相は変らない。まるで沢の廃墟といった感じだ。小1時間のところで沢が壁になり、流れは壁の中から数条の滝のように落ちている。これにも一同唖然。崩壊は沢全体を埋めてしまったのだろうか。ここで一本取り、冷静に現在地の確認をする。谷の広らけた様子から、産女川手前の沢を間違って入ったことも考えられるが、地図には右岸から入る顕著な枝沢はそこにはない。よく分からないまま、取りあえずこの壁を登って先に行くことにする。登った先はさらに巨岩の堆積した、それこそ地震の爪痕を物語るような光景だった。そこで、一本手前の沢にいることを確信して、産女川に入るには左にトラバースしていけばよいと判断する。
巨岩の中を進み、笹のやぶをこいで行くと池に出合う。さらにこの池から上に登って行くとまたまたプールになっていたが、その先にはまぎれもなく沢が流れていた。さてここは何処?一同地形図とにらめっこしていたが、どうもこれが産女川のよう。あまりに小さい流れだが、それ以外に考えようがない。半信半疑でいると淳さんが携帯を持ち出し、GPSが産女川に入っていることを示していた。
一同、やっと普通の沢登りができると安堵したが、またまた巨岩帯が現れた。上に下にと、ここを通過するのに時間がかかってしまったが、これ以降は待望のナメやナメ滝が連続するところとなった。上部は地震の影響もほとんどなく、なるほど秀渓と呼ばれるだけの美しいところだった。ただガスが沢全体を覆っていたのは残念だった。ナメは何mも続き、紅葉もきれいだったので、晴れていればさぞ絶景だろと思わせるものだった。
二俣を右に入ると小屋まではそうかからない。つめはヤブコギもなく草紅葉の源頭となる。途中で水を汲んで小屋に入ると先客の女性が二人いた。この笊森避難小屋は改築してまだ新しく、とてもきれいで快適だった。トイレも中にあり、雨水を利用した水洗である。夜半には風雨強く、翌日の天気が危惧された。
10/10 曇り
起きてみるとなんと雨はやんでいる。外の景色は遠くまで見渡せ、紅葉がとてもきれいに見える。夜に雨降って、朝にはやんでて欲しいね、という宮崎さんの言が本当になった。温かなうどんを食し、ボッカトレとした高橋さん以外は荷物は小屋にデポし、栗駒山へのピークハントに勇んで出かける。
思わぬ天からの贈り物に一同ルンルンである。素晴らしい紅葉もそうだが、雲海が山々を幻想的な雰囲気にかもし出し、墨絵の世界を見ているようである。1時間で栗駒山に着く。頂上はあいにくとガスの中だが、時々その切れ間から眺望がのぞけ、カメラマンはあっち行ったりこっち行ったりと大忙しだった。絶景を堪能した後小屋に戻り、笊森コースを下山する。このルートはあまり歩かれていないようで荒れている。笹はしばらく刈り払われていないようで、半ば藪こぎ状態だ。木道は壊れているし、道は沢登りのようなところもあり、ジャブジャブと進む。ぬかるんだところでは、運動靴に履き替えたがっちゃんと高橋さんは悲惨なことになっていた。上り口近くにあった朽ちかけた指導標が、古の道を物語っていた。
地震の崩壊のせいだろうと、十分に確認もしないまま沢を間違ってしまったのは反省するところである。結果として、産女川の下部は遡行し損ねたが、それでもその崩壊は十分に見て取れるものだった。上部の美しさは保っているものの、下部の惨状はいかばかりのものか、再度訪問してみたいと思っている。しかしながら、確認できただけの崩壊でも元の沢に戻るにはどれだけの年月がかかるのか、途方もない時間が必要となるだろう。いやそれは願望であって、元に戻ることなどとても叶いそうにないと思われるほどの悲惨な状態だった。はなはだ残念でならない。

~ 参加者感想 ~ (記:宮崎)
「秋の山はいいものだなあ!」紅葉の素晴らしさを堪能させてくれた栗駒山に突き上げているのが、百名谷の一つ産女川である。栗駒山は、宮城、岩手、秋田の県境に位置しており、我が故里の小学校の校歌にも登場するごく身近な山であるが、登ったことは無かった。こんなにも鮮やかな彩りを見せてくれるとは。そしてもう一つ驚いたのが、2年前の地震で激しく様変わりをしてしまった入渓点近辺の悲惨な姿だ。川の姿が堆積されたたくさんの石で判然としない。道が閉ざされたというニュースを聞いていたが、寸断された橋の一部を目にし地震の威力、恐ろしさを実感した。
歩き始めゲート付近はすでに小雨。雨具を着て出発。崩壊した様子を目の当りにして、踏み跡どころかただ水の流れに従って進む。しかし突然遮断。トラバースするが大岩に次ぐ大岩。急斜面の笹薮漕ぎで「癒しの沢は、どこだー。いったいどうなってるんだー。」
淳さんの携帯でやっと産女川に入ったことが分かり、深く安堵。プール状を抜けるとやっと噂通りのナメが続く。ナメナメナメ、小滝、小滝。辿り着いたのが、整ったステキな避難小屋。明るく清潔感に溢れ、疲れが一気に吹き飛んだ。美味しい料理の数々にも感動。夜間に雨音が強くなる。
懸念された翌朝の天気はまずまずで、山頂に着くと晴れ間が広がり錦秋を満喫。下山も眺めと地震の傷跡の話題で程なくゲートに辿り着いた。
翌週帰省すると地元紙に、日本山岳協会創立50周年記念で岩崎元郎さんら30人が、私達と同日に栗駒山に登ったとの記事が載っていた。また仙台では、9日に労山50周年記念で田部井さんの講演会が行われ、やはり同じ10日に女性委員会企画で55名参加の栗駒山登山が実施されたようだ。私達も時間がずれていたらこの大集団に遭遇していたはずだ。ミーハーとしては、百名谷編集者の岩崎さんに会ってみたかったような。田部井さんに過日のメールのお礼などを申し上げたかったような。
こんなに人気があるスポットとも知らず、惨状の実態も知らずに、またまた皆様におすがりして無事百名谷を遡行できたことに感謝します!

(記:石松)
10/9(土)・10(日)、宮城・岩手県境の栗駒山東面に源を発する産女川遡行企画に参加させていただきました。東北の秀渓との誉れ高い産女川と、同じく紅葉の名所としてつとに名高い錦繍の装いの栗駒山の絶景に期待も高まります。
あいにくの小雨の降る中、桂沢林道のゲートより一時間強の林道歩きで入渓点の産女橋と思しき所に着いて吃驚。橋はなく、対岸の基礎がむき出しの状態。周囲も土砂崩れで、工事現場のような様相。一昨年の岩手・宮城内陸地震の破壊力を目の当たりにし、一同震撼。
両岸の山肌が大規模に崩落し、泥土が堆積して埋め尽くされた谷の上を流れに沿って遡行。地形図が用を成さない程の変わりようで、途中、断崖に阻まれる形で現在地不詳に。吉田リーダーの的確な判断で西にトラバースし、漸く本流に復帰。一時は遡行自体の継続も危ぶまれましたが、標高970m付近より上部は地震の影響もなく、沢も本来の姿に戻り深く安堵。
現金なもので、美しいナメや、ガスのため視界も利かないが所々紅く色付いた樹々も現れ始め、好感度も急上昇。程なく二俣を経て、踏跡を辿れば左岸台地上の笊森避難小屋に導かれます。小屋は瀟洒な外観と、内部も清潔に保たれ、前線の通過で徐々に風雨も強まる中、至極快適な一夜を過ごさせていただきました。吉田シェフの豪華晩餐も美味でした。
翌日は雨も上がり、前日は視界がなく目にすることができなかった鮮やかな紅葉の中を栗駒山に向かいます。山頂付近はガスの中でしたが、ガスが切れた瞬間の刹那的な景観も印象的でした。復路は東栗駒山との鞍部を経由しての周回ルートとなりましたが、辺り一面深緑のカンヴァスに山吹や紅の油絵具を盛った感じで、たっぷりと目の保養をさせて貰います。
避難小屋で荷物を回収し、笊森コースを下山。あまり歩かれていない様子で、未明までの降雨もあり、膝まで水没する箇所も。地震による地割れ地帯を通過し、登山口に帰還。その後、宮崎さんのご厚意で、隣県の実家探訪ツアーにご招待いただき(というか押し込み?)、お母様の手厚いもてなしに与ります。美味しい料理の数々に加え、フカフカの寝具まで使わせていただき、恐縮でした。
みちのくの優美な山河と人情に触れることのできた、印象深い二泊三日となりました。ご参加の皆様、特に宮崎さんとお母様、有難うございました。